咥えた女

 学生の頃は比較的まじめな方で、授業もサボらないでまじめに出席していた。友だちには九州男児の勢いの良いやつがいて、映画を観たり、ジャズ喫茶に行ったり、他の大学の学園祭で女性と話し込んだり、なんでも見てやろう行ってやろうという積極的な行動につき合わされているような状態だった。
 そんなある日、九州男児の彼が変わった。急に無口になり、考え込んでうつむいたりするようになったのだ。九州男児にしては口数が多く、何事にも積極的で、貪欲に人と接し、なんでも吸収してやろうというバイタリティが、影を失せている。
 彼は恋をしていた。東京に来てからはじめての恋だった。
 ところがその相手はとんでもない職業の女だった。
 彼女は実は風俗嬢で、それもソープランドに勤めていた。
 職業に貴賎はない。彼は堂々と胸を張って言った。たしかに、その通りだと思う。だがしかし、彼女にするには難しい職業かもしれない。
 彼は彼女にぞっこんになってしまい、やがて講義にも出なくなり、音信さえ不通になってしまった。
 わたしは確かに人間というものは、迷いの多い生き物であると、今さらながら実感していた。
 
 その後、彼を一度だけ渋谷の交差点の真ん中で、見かけた。頬がこけげっそりしたその風貌は、かつての彼とはほど遠い、ぬけがらのようだった。
 その隣に寄りそっているのは、わたしには猪八戒の女性版のように見えた。
 もしかしたらもう、魂まで食い尽くされてしまったのか・・・。
 わたしの背中では、ぞっとした冷や汗が伝わって落ちていった。

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