希代のワル

 常識にかからないのはいわゆる詐欺師である。はじめからわたしを騙すつもりだった。ただ、その騙し方が卑劣この上なかったのである。

 彼女と出会ったのはあるスナックだった。わたしは別の女性と一緒にその店に来ていたが、彼女は一人でカウンター席で飲んでいた。いわゆる馴染みのようで、時にはヘルプで店に入っているのかもしれないと思った。
 わたしは連れの女と喧嘩をしてしまって、女は怒って店を出て行ってしまった。わたしは追いかけて連れ戻そうとしたが、女は偶然に通りかかったタクシーを拾って、はるか彼方に行ってしまった。
 「ママ、今日は散々だったよ。あいつが悪いんだぜ。金のことばっかりねちねち言いやがるから」
 「しずくちゃんもしっかりしないとね。あんな女ばっかり手を出すんだから」
 彼女はそんな話をしているわたしとママの間にそっと入ってきた。
 「お隣にお邪魔してよろしいですか」
 「あら、K子ちゃん、ちょうどよかった。この方のお相手してあげてね」
 ママはわたしといっしょに座っていたボックス席から他のお客の席に移動していった。
 「すいません。お話の途中だったのに」
 「いや、いいんだよ。ママの説教は聞き飽きたから」
 それからわたしたちは音楽の話や、映画、芸能界、政治、環境問題などいろんな話をしながらお互いを探り合っていた。
 そんなときふと彼女は話題を変えた。
 「しずくさんって失礼ですけど独身なんですか」
 「まあそうだけど」
 「実はうちの姉なんですけど、なかなか男の人と付き合う機会がなくて、だれか紹介してほしいっていわれているんです。しずくさん、よかったらうちの姉と会ってみてくれませんか」
 「それってお見合いみたいなものかな。そうね、気軽に会うだけだったらいいかな」
 「ありがとうございます。きっとしずくさんだったら、姉も喜ぶと思います」
 実はそれが罠だった。彼女はちょっとした美人局で、彼女の姉は悪魔だったのである。

 悪魔は乳飲み子を抱いて居間に寝ている。
 わたしは彼女の姉と結婚したのである。

 

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