テーマ:ショートショート

かき氷

 その音を聞くたびにジュンは心臓がギリゴリとしてくるような気がした。その店は駄菓子屋といって外と内の区別がなかった。境界線のない店には,蠅取り紙に蠅がたくさんくっついたままゆれている。外の風が自然と流れてくる。蝉の鳴き声がBGMの代わりに聞こえてくる。  ジュンの今は,冷房のきいた部屋で,内と外がきちんと区切られた部屋だ。昔の記憶はい…
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いじめられっ子からの手紙

 拝 啓  お元気ですか,先生。ぼくはどうしても今,先生に話したくてしょうがないことがあって,手紙を書いてしまいました。  悲しみは時間とともに薄れてゆくといいますが,ぼくの悲しみは時間とともに増してゆきます。どうしてぼくは自分をたいせつにできないのでしょうか。どうしてぼくはみんなの言うとおりにすることで,みんなをダメにしてゆく…
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悲しみの後始末

 ぼくは夜の街を歩くのが好きだった。というより,昼間の明るい世界の中に身をさらすことが恐かった。  夜はぼくにとって魅力に満ちていた。暗がりの真っ黒な空間には,ときどき犬や猫でない,特別な生き物が隠れていることがある。その姿は一瞬しか見えないけれども(いや見えた気がするだけかもしれないが),そのなんともいえない不気味さがぼくにとっては…
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答えられない問いかけ

 わたしは,その時,ことばを失った。  「あたしなんのために生きてるの」  わたしたちの前には,夜の闇が待っていた。わたしは靄がかかって前がよく見えない国道を,たぶん100キロ近いスピードで車を走らせていた。そのハンドルを握る手のひらが震えていた。  こんな夜に,そんなこと言われても,今さらどうしようもないじゃないか。  「ふざ…
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道に迷う

 なぜかわたしはいつも夕暮れ時になると道に迷う。  たぶんキツネに化かされて,キツネ火についていってしまうのだろう。歩いていても,自転車に乗っていても,車を運転していても,同じように道のまわりの家々が判別できなくなってしまう。  それは景色の失念というか記憶喪失のような方向音痴になってしまう。それは右にある建物を確認しながらもとの道…
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怖い一日

 昨日から夢を見続けている。だからその夢がいつ終わっていつ始まったか記憶が定かでない。  たしか,三年前に急逝した幼なじみの友が,何かを一生懸命計算していた。それは自分も計算したことのある伝票のはずで,どうしてその友が額に汗をして計算を続けているのかはじめはよくわからなかった。  徐々に視界がひらけてきた。風の音が耳の後ろに響くよう…
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だれにも話せないこと

 「きみはだれにも話せないことがあるかい」 Mはそう切り出した。そんなことあたりまえだ。だれでも秘密のひとつやふたつはある。  「あるけど,なんでそんなこと聞くの。おまえが先に言ったら,おれの秘密を教えてやってもいいけどな」 Mは少しうつむくように視線をはずしたが,すぐにキッとおれをにらむように視線を合わせてきた。  「わかりま…
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春眠暁を覚えず

 「うーん,もっと寝かせといてくれよ」  「だって,今日はサトルの楽しみにしてたお出かけの日よ。ねえ,動物公園に行くっていったじゃない」  たしかに昨日までは,サトルのおねだりに応えて,たまの日曜日を子供のために過ごしてみようと思ったのだが。  「なんか身体がだるいんだよ。風邪でもひいたかな」  「困ったわね。あたしひとりじゃ,…
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衝撃の告白

 彼女と逢ったのは,雪の降る3月だった。それははじめての出逢いではなかった。  実は,彼女とは幼稚園がいっしょで,小さい頃はよく家にも遊びに来ていた。  あれから30年以上の月日が経っていた。その面影や印象とはまるでちがう女性が立っていた。  「横田敦子です。お久しぶりですね」  たしか,旧姓は斉藤といって斉藤んちの「あっちゃ…
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