お父さんはいらない

彼の帰る場所はない

妻はその死を望んでいる

子はその存在を消したがっている

彼に味方はいない

すでに宣戦布告をされている



彼はずっと孤独である

家と会社の往復だけで

会社でも話し相手はいなかった

自分の仕事を淡々とこなして

一日を終えては

無言で会社からまっすぐ家に帰った

家でも話し相手はいなかった

時々イラついては

妻や子どもたちに手をあげることはあっても

それは会話ではなく

一方的な暴力だけだった

やがて妻や子は自室に鍵をかけて

父親を避けるように寝た

彼はテレビも見ないし

本も読まない

趣味もまるでなく

ただ夕食を食べ終わると

自室に入って寝るだけになった



あれから何十年起ったのだろうか

彼は変わりなく

孤独だった

彼には帰る家もなく

家族もなくなっていた

それでも

彼はそうなってはじめて

帰宅を望んだ

帰りたい帰りたい

いつ帰れるんだろう

家族は今なにをしているんだろう

彼はそれだけを考えて

それ以上のことは

考えられなくなってしまった



ここから彼の家まで

果てしなく長い距離がある

その家には今

見知らぬ他人が住んでいる

そのことも

彼はもはや知ることもないだろう

お父さんはもういらない

たったそれだけのことだった

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この記事へのコメント

田舎の親父」
2007年05月09日 00:48
私も似たような境遇が20年前くらいにありました。今は定年退職して夫婦
ともに悠々自適の生活をしていますからもう問題はありません。
どうしてそのように分裂に走ってしまったのでしょうか?
私は双方に問題があると思います。
綾小路きみまろの毒舌漫談よりもきつい話です。

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